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「医療機器ソフトウェア開発で必須となるIEC 62304をゼロから学ぶ」 第1回 規格を読むための導入

2023/07/13 10:00:00

こんにちは、イーソル エンジニアリング本部 Medical課のY.Sです。

イーソルは医療機器や顕微鏡・研究向け製品をはじめとした医療・科学分野のエンジニアリングサービスを提供しており、Medical課は医療系のソフトウェアの開発に携わっています。

高い安全性が求められる医療機器ソフトウェアの開発においては、ソフトウェアのライフサイクルを定義するIEC 62304規格への準拠は必要不可欠です。

イーソルでは、 医療分野に関わるソフトウェアエンジニアに向けて、IEC 62304理解のための社内勉強会を定期的に開催しています。

今回、「医療機器ソフトウェア開発で必須となるIEC 62304をゼロから学ぶ」と題し、我々が勉強会で得た見識について紹介するブログシリーズをスタートします。計4回に分けて  月1回のペースで投稿予定ですので、この分野に関心をお寄せの読者の皆様はもちろんのこと、高い安全性が求められるソフトウェア開発について幅広く情報を情報収集されている皆様もぜひ最後までご覧ください。



 




 



 

 

 

1. IEC 62304とは?

IEC 62304は医療機器ソフトウェアのライフサイクルを定義した国際規格です。
医療機器ソフトウェアが起因となる事故への対策のために作成され、設計や検証をリスク分析・評価の結果に基づいて行うなど、リスクベースアプローチを重視した規格となっています。

この規格は、医療ソフトウェアや医療機器に組み込まれるソフトウェアに適用されます。
医療機器ソフトウェアの開発では、ソフトウェア設計~実装~評価の基本的なソフトウェア開発プロセスに加え、開発計画や保守、リスクマネジメント、品質マネジメントシステムなどの管理に関わるプロセスまで、この規格に則って運用する必要があります。

また、  IEC 62304は医療機器ソフトウェアの規制要求事項となっています。
日本だけでなく米国、EU、中国で医療機器ソフトウェアを製造・販売する場合には、実質的にこの規格に適合していることが法令で定められています。
医療分野に関わるソフトウェアエンジニアにとって必ず理解しておくべき内容です。

2. ISO、IEC、JIS規格の基礎知識

・規格の種類

規格は、発行される団体によって、以下の表のような種類があります。

規格名 正式名称 説明
ISO International Organization for Standardization 国際標準化機構が作成した国際規格。
電気・電子技術を除いたすべての産業分野に関する規格。
IEC International Electrotechnical Commission 国際電気標準会議が作成した国際規格。
電気・電子技術分野に関する規格。
JIS Japanese Industrial Standards 日本の国家産業規格。国際規格に対応する。

表1 規格の種類       


・ISO、IECについて

ISO、IECは国際規格であり、国際的に共通の標準規格となっています。
ISOは5年毎、IECは文書毎に定められた期間毎に見直しが行われます。一度制定された規格も改正される場合があるため、随時最新の規格に対応していく事が求められます。
最新の規格に対応するために、場合によっては、国際規格になる前段階の動向をチェックすることも重要です。
ISO、IECの標準化の過程は以下の図のようになっています。

図-1-ISO、IECの標準化の過程_2図1 ISO、IECの標準化の過程
「ISO/IEC規格の開発手順」日本産業標準調査会ウェブサイト
https://www.jisc.go.jp/international/iso-prcs.html)をもとに作成

また、ISO、IECの出版物には、以下の表のような種類があります。

出版物名 正式名称 説明
IS International Standard 国際規格。ISOでは5年毎、IECでは文書毎に定められた期間毎に見直しが行われる。
PAS Publicly Available Specification ISになる前、準じた地位を持つ文書。ISOでは3年毎、IECでは2年毎に見直しが行われる。
TS Technical Specification 将来的にISとなる可能性のある文書。PASより非公式の度合いが高い。3年毎に見直しが行われる。
TR Technical Report データ、テクニック集

表2 文書の種類  
「ISO/IEC規格の開発手順」日本産業標準調査会ウェブサイト  
https://www.jisc.go.jp/international/iso-prcs.html)をもとに作成  


各出版物は有償で頒布されています。開発を行う上では、ISだけではなくTRなども参照します。

・JISについて

JISは日本の国家産業規格(旧称:日本工業規格)です。
JISは基本的に国際規格と対応するように作成されますが、地域性や商習慣により変更される場合があります。
国際規格との同等性は、IDT(一致)、MOD(修正)、NEQ(同等でない)の三種類で表現されます。例えば、JIS T2304はIEC 62304との関係はIDTとされています。

JISの規格の記号について、JIS Aは土木及び建築、JIS Bは一般機械のように、記号には意味があります。
医療機器ソフトウェアに関連するものは主に以下となります。

  • JIS Q:管理システム
  • JIS T:医療安全用具
  • JIS X:情報処理

JISの規格はJISC(Japanese Industrial Standards Committee)のホームページにて無償で閲覧することが可能です。
ISOやIECの文書に対応するJIS文書がある場合も、同ホームページにて無償で閲覧できます。 例えば、IEC 62304にはJIS T2304が対応しています。

 

3. ISO、IEC、JIS規格を読む上での注意

規格には、章構成や文書表現に決まりがあります。規格を読む上での注意点について紹介します。

・引用、参照、付属書

規格の中では、他の規格を引用、参照することがあります。
引用規格として示される場合、規格の要求事項の一部を構成しているため、引用した規格の中身にも目を通す必要があります。一方、参照はあくまで参考情報として記載されているものなので、必ずしも目を通す必要はありません。
特定のバージョンの規格を引用、参照する場合には、参照する規格の制定・改正の年度が末尾:(コロン)以降に表記されます(例:IEC 62304:2006)。バージョン指定がない場合には最新版を引用、参照することとなります。
付属書は、それにも要求事項が記されている場合があるので、必ず目を通す必要があります。


・規格内の表現

ISO、IEC、JIS規格の中で用いられる表現には以下の表のような決まりがあります。

記述事項 英語表現(例) 日本語表現(例) 表現の区分
要求事項 Shall ~する 指示
Shall not ~してはならない 禁止
推奨事項 Should ~するのが望ましい 推奨
Should not ~しない方がよい 緩い禁止
許容事項 May ~してもよい 許容
May not ~しなくてもよい 不必要
可能性・能力事項 Can ~可能性がある 可能性・能力
Can not ~可能性がない 不可能
外部の制約 Must ~に従わなければならない 外部の制約

表3 規格内の表現      
JIS Z8301「7.記述事項の表現形式」より引用      


要求事項として記述されている場合は、必ずそれに従う必要があります。一方、推奨事項として記述されていてそれに従わない場合は、理由付けが必要となります。
規格を読む際には、これらの文章表現に注意する必要があります。

4. 最後に

いかがでしたでしょうか。
今回の勉強会で、IEC 62304とは何か、また規格を読む際に注意すべき事柄がわかりました。
次回は、今回学んだことを踏まえ、実際にIEC 62304の中身を掘り下げた内容についてご紹介します。

また冒頭でご紹介した通り、イーソルは医療分野のエンジニアリングサービスを提供しており、豊富な実績があります。医療分野のみならず、車載・産業などの幅広い領域における開発実績で身に着けた安全性の高い開発プロセスなどの知見や技術力は、お客様の求めるお客様が目指す高性能で高品質な開発を強力に支援します。
医療分野の製品開発で課題がある、IEC 62304をはじめとした規格に準拠した開発を実施したい、エンジニアリングサービスについて詳しく知りたい、という方はぜひお気軽にイーソルにご相談ください。

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Medical課 Y.S


参考:

・日本産業標準調査会:国際標準化(ISO/IEC)-ISO規格の制定手順
 https://www.jisc.go.jp/international/iso-prcs.html

・日本産業標準調査会:産業標準化とJIS
 https://www.jisc.go.jp/jis-act/index.html

・JIS Z8301 / 7.記述事項の表現形式

 

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